駆動電流閾値前後におけるレーザーダイオード劈開面からの発光分布の高分解能観測


-研究目的-

 レーザダイオード(LD)を遠視野場で発光分布を観測するシステムを構築し、閾値前後での発光分布を測定を行い、近接場の発光分布と比較することを目的とした。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  近接場光プローブをレーザダイオード(LD)素子劈開面に近づけ、近接場としての発光分布を調べたところ、レーザ発振している理想的なTE00モードに相当する分布は観測されず、その周囲に増強自然放出と思われるスポットが多数観測された[1]。 
 これはTMモードに相当するのか、あるいは遠視野場としては全く放射されないモードであるのかを決定するため、高倍率で(遠視野場)発光分布を観測するシステムを構築し、閾値前後での発光分布を測定、比較した。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  有機色素は化学反応性が高いため、周囲に酸素や水が存在すると、強い光が照射されたとき有機色素と酸素が結合し光学的に不活性な状態に移行し褪色してしまう。
 そこで透明ポリマーであるPMMAに色素を包埋して酸素を遮断し褪色をしにくい導波路を形成しようとした。
 本研究ではディッピング法により有機色素ドープポリマー薄膜を作製した有機色素とPMMAを溶媒のクロロホルムに溶かし広口のバイヤル瓶で混合する混合溶液に保護被覆を剥がした直後のマルチモードファイバ、または表面をオゾンで親水化したスライドガラスを浸し、ゆっくり一定の速度で引き上げると、表面張力により均一な厚さのポリマー薄膜ができ、その内部には色素分子がランダムな方向で包埋されている。こちらの方法もディウェッティング法と同じく表面張力により自然に膜が形成される。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  本研究で使用した色素の分子式
どの色素も二重結合と一重結合の連なった共役π結合をもっている、結合の端の2つのNの片方がN+で安定している、π電子が共役π結合の中を動いてNとN+がいれ変わる、ピンクに塗られた範囲がπ電子が動ける共役π結合の範囲(結合長L)。内部に分極を持ちそれがいれかわっているので、溶液の状態では周囲にある他の分子の分極の影響を受け電子の順位が様々な値をとるので吸収、発振スペクトルともに幅が広がる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  増強自然放出(Amplified Spontaneous Emission:ASE)とは光で励起された色素が発する光の電磁界が非常に強くなると、その電磁界中に置かれた他の色素が発光する際、全く同じ振動数、同じ位相の光を放射するようになり指数関数的に光電界が増幅され、結果的に非常に強い光がコヒーレントな状態で成長する現象。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  鋭い発光スペクトルを示す他の例として、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)があります。
これは円筒型または球型の導波路の側面方向から入射した光が屈折率の高い導波媒質と、大気との境界面で全反射しながら周回する。このとき導波路の長さが波長の整数倍になるものが増幅される、一種の光共振器モードである。このモードは、教会の回廊で囁き声が壁に沿って伝わる現象にちなんでウィスパリングギャラリー(ささやきの回廊)モードと呼ばれる。発振波長は導波路長に依存し一定の間隔で複数のモードが立つ。WGMの発振波長はこの式でで与えられる。
Mは一周当たりの反射回数、neffectiveはポリマーの実効的屈折率(PMMAの場合は1.49)、2πRはリングの直径(125μm)です。模式図のように反射回数が少ないと導波路は多角形をしているがMが多くなるとほぼ円形になり2πRで近似できる。導波路の直径が小さくなると発振波長はより長波長側になると考えられる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  縦励起法
ディッピング法によりピリジン4をドープしたポリマー薄膜を塗布し、円筒導波路を形成した。マルチモードファイバーの反対側の端面から対物レンズで励起光を結合し、コア内を伝搬するレーザ光で試料を励起し蛍光観測を試みた。 波長可変パルスレーザ光を色素ドープポリマーを塗布したのと反対側の端面に対物レンズ@で集光しファイバコアに導入する。ファイバ内部を伝搬するレーザ光とそれによって励起された試料からの蛍光とが端面から出射し、対物レンズAでコリメートされ、ダイクロイックミラーで励起光は除去され蛍光は対物レンズBで集光しスペクトロメータに導いて測定した 。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  縦励起法での発光スペクトル
励起波長500nmでは610nmに鋭いピークが立っている。このピークは励起波長を490nm、480nmと短波長側に変えると発光波長は610nmから640nm、680nmと長波長にシフトします。シフト量は励起波長の変化の3.5倍程度で逆側にシフトする。ブロードな発光スペクトルがピリジン4の本来の発光スペクトル波長590nm以下で急激に強度が下がっているのは励起光を除去するために設置したダイクロイックミラーによるもの。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  この発光が何に由来するものか知るために色素をパイロメテン597に変更して測定した、また色素ドープポリマーを塗布せずに測定を行い発光スペクトルが変化するかを調べた。
色素を変更してもあるいは塗布していなくても励起波長500nmのとき波長610nmに鋭いピークが確認できる。またこのピークは励起波長に対する依存性も同じだったのでこの発光は色素からではなく共振器構造あるいはマルチモードファイバ自身からの発光であると言える。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  この発光ピークがウィスパリングギャラリーモードによるものならばその波長は円筒導波路の長さ、つまりマルチモードファイバの太さに依存するはずなので、フッ酸でエッチングして細くし、導波路長を短くして測定した。波長500nmで励起したところエッチング前と同様に610nmで鋭いピークが観測でき、励起波長依存性も変化しなかったので、この発光のピークのはウィスパリングギャラリーモードによる物ではない、以上2点からこのピークはマルチモードファイバ自身の発光だと言える。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  反対側の端面から励起光を導入する方法ではファイバ自身からの発光が確認できた。
次に塗布した色素ドープポリマー薄膜からの発光を観測するための光学系を構築した。
まず波長可変パルスレーザーを2枚のステアリングミラーを使って水平でファイバに直交するように調整し、対物レンズ@で集光し試料を励起した。そして、試料からの発光及び励起光の反射光を対物レンズ@で平行にし、ダイクロイックミラーで励起光の反射光を除去し、対物レンズAで集光しスペクトロメータに導いて測定した。しかし、通常と同様なブロードな蛍光スペクトルしか得られなかった。