色素微粒子の自己組織配列と加熱処理


-はじめに-
 有機色素は、ナノテクノロジーにおいて重要な光学材料の一つである。分子テクノロジーをフォトニクスに導入する際、基板上のディウェッテイング現象を利用した。ナノサイズレベルでの色素のディウェッティングのコントロールが重要になる。これらの技法が可能になれば多くの有機色素分子種に応用することが出来る。ここでは、ディウェッティング現象による色素微粒子の形成と自己組織配列において自己組織化が起こるメカニズムを調べ、特に加熱処理の効果を検討する。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  【目的】
1. ディウェッティング現象による色素微粒子の自己組織化形成過程を蛍光顕微鏡下でリアルタイムでその場観察。
2.加熱アニーリング処理を行い、その変化を観測する為に温度制御回路を組み込んだ加熱処理システムを構築。
自己組織配列とは、図のように色素微粒子が規則的に並ぶ現象が自己組織的に起こる現象。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  色素溶液が均一な厚さに薄く広がるよう、基板表面をオゾンで親水処理している。
 この上にローダミン6Gのクロロホルム溶液を広げ、ガラスロッドを一定の力で押し付けて転がす。
 ガラスロッドが通過した後には色素溶液の薄膜が排出される。クロロホルムは、短い時間で蒸発し色素の微粒子が基板上に残される。このとき表面張力の作用と色素分子間の相互作用により多数の微少な液滴に分かれる。これがディウェッティングのプロセスである。
 自己組織化によって試験管の移動方向に沿って粒の大きさのそろった蛍光色素の微粒子が等間隔で配列される。
 この現象の利用の為に、まず溶液をガラスロッドで圧迫し、基盤上に溶液薄膜を形成させなければならない。
この溶液の薄膜の厚さによって微粒子のサイズが変わる為、色々な方法で薄膜の厚さを調整し顕微鏡測定に適した微粒子のサイズを形成する方法を検討した。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  リアルタイム観測を行う為に、ディウェッティングによる色素微粒子の2次元配列を規則的に形成させる事が必要である。 そこで図のような方法でそれぞれディウェッティングを行い規則的な自己組織配列を形成させる方法を検討した。
撮影のためには直径の小さなガラスロッドでなければならない為、直径3mmのガラスロッドを使用した。また比較の為に、直径15mmの試験管ガラスロッドも使用した。
 1.ではガラスロッドを一定速度で滑らかに転がす為にガラスロッドを押す面とガラスロッドの接触面を小さくし、摩擦を減らすため、クリップを用いて、さらにシリコンスプレーを塗布し、極力摩擦を減らした。これによってガラスロッドは滑らかに回転するようになり、一定速度と一定回転によるディウェッティングを行うことができるようになった。
 2.ではガラスロッドを押しつけながら回転させる為にガラスロッドを押しつけるロッドの両端に摩擦を大きくする為にテープを張った。これにより押さえつけたクリップが一定速度でガラスロッドを圧迫し回転させながらディウェッティングする事が可能になった。
3.ではガラスロッドと基盤の間に0.1mmのスペーサーを入れ回転させた。上からの圧力をかけてもガラスロッドと基板の間に一定のスペースを開ける事ができる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  図a)のように細いガラスロッドを、水平より傾けた基板上に設置し溶液を滴下後、DCサーボモーターを使ってロッドを押し上げ回転させながら基板下方に薄膜を排出させ、ディウェッティングを行った。
 これにより図Bのような色素微粒子の配列ができた。Cにこれの蛍光像を示す。微粒子が形成された部分が蛍光によって発光しているのでこれが色素微粒子の集まりと確認できる。微粒子が曲線を描いているのはガラスロッドの両端に溶液が多くあつまり薄膜が厚くなり、その部分の揮発の速度が中央付近より遅くなった為と考えられる。それによって色素微粒子のサイズは、中央付近よりも両端の部分の方が大きく形成されている。
 薄膜の厚さが一定でないのはガラスロッドの重さも加味していると考えられるので、ガラスロッドを大きなものに変えて同様にディウェッティングを行った。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次に直径の大きいガラスロッドに交換して同様に押し上げながら、ディウェッティングを行った。
ガラスロッドの重量が増し、軽量ロッドよりも基盤に安定して圧力がかかっているので、薄膜の揮発速度が安定し色素微粒子を直線的に配列することができた。
 蛍光顕微鏡下で軽量ロッドで同様の効果を発揮したいので、次の方法を考えた。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  図のように上から圧力を加える事で、軽量ロッドでも基板に垂直な圧力をかける事が出来できるようになった。
 この方法に変更し、ディウェッティングを行った。
 結果、細いガラスロッドでも直線的で同一のサイズの自己組織配列を形成することができた。しかしこの場合、圧力が増えるため、排出される薄膜がよりいっそう薄くなり、それにより色素微粒子のサイズが小さくなり、顕微鏡での観測には適さない。
 そこで、上から一定の圧力を加えながら、さらに薄膜を厚くし顕微鏡に適したサイズの微粒子を一様に形成する為に、次の方法を考えた。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  色素溶液の厚さを制御するため基盤と試験管及びガラスロッドの間にスペーサーを入れた



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ガラスロッドと基盤の間にスペーサーを入れる方法である。
 これは上から圧力を加えながらガラスロッドを回転させても、常に一定のスペースを確保しながら進行することができるため、排出される薄膜の厚さを一定に調整する事ができる。ここでは0.1mmのスペーサーを入れディウェッティングを行った。
 画像でも確認できるように、この結果形成された微粒子は、直線的な自己組織化を形成し、また微粒子サイズも顕微鏡測定に適したものすることができた。
 この方法を用いて顕微鏡ステージ上でディウェッティングを行えばその形成過程がリアルタイムで観測できる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  最後に、同様の方法で直径の大きな試験管でも0.1mmのスペーサーを入れ、ディウェッティングを行った。この結果、縦方向だけでなく横方向にも直線的な自己組織配列がみられ微粒子のサイズも均一に形成することが出来た。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 結論

・再現性は悪いが、蛍光顕微鏡下で確認できる微粒子サイズの自己組織配列は生成可能。
  →薄膜の厚さ・濃度の違いが微粒子サイズに関連
・リアルタイムその場撮影を行う装置を構築し、ディウェッティング現象が撮影出来る事を確認した。
  →再現性が悪く、現段階では微粒子形成のプロセス撮影は困難。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ディウェッティング現象を軽量ロッド(押し上げ型)を用いリアルタイム撮影した