ナノ秒レーザーを用いた蛍光分光システムの構築ならびにYAGレーザーを用いた蛍光分光システムの構築


-背景-
 近年、微細化の進む集積回路の評価。または微細領域における特殊な物性や微細な構造体などの観察。これらナノスケールの物体を光学的に観察しようとしても従来の光学顕微鏡では「光の波長より小さい物は観察できない。」という制約から不可能な事と言える。このような物を観察しようとすると光の波長λを短くするしかない。
 その為には光速vを遅くするか振動数ωを高くするしかないが、近接場顕微鏡とは光を振動数ωが非常に高い近接場「エバネッセント波」に変換しそれを用いる顕微鏡であり、これによりナノスケールの試料を観察しようと言うものである。
 この時、光プローブは試料にエバネッセント波を当てる役割と、試料から帰ってきた光を集光する役割の両方を担うことになり、そういった場合、光源と検出器に光路を分けなければいけないことになる。
 今回は「近接場反射測定」と「近接場蛍光測定」という二つの測定系に用いる装置の製作を行なった。

-目的-
 近接場顕微鏡で局所領域における反射測定や蛍光測定を行うときの測定系の構築。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ナノ秒パルス波を用いた近接場反射測定系の構築を行った。
 レーザー発振と同時に発振器より同時に送り出されるトリガ信号はトリガ回路と遅延回路によってTTL出力に変換され、トリガ信号を基準として、時間遅延を経てサンプル&ホールド回路のホールドコントロールに入力される。
 パルスレーザー発振器より発振したレーザーは光ファイバで導かれその先端の光プローブによって試料に照射され、その反射光を再び光プローブで読みとりフォトダイオードで検出する。
 このときサンプル&ホールド回路に時間調整が行われたパルス波をスイッチとして用いることで、フォトダイオードより読み込まれた反射光強度をパソコンへと送る。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @サンプル&ホールド回路
 パルスレーザーは一発が周期にして200ns程度のものなのでそれをパソコンにそのまま取り込むことは困難といえる。
 そこでそのパルス波の特定の時間における電圧値だけを読み込むことでフォトダイオードの出力をパソコンに取り込もうとしたものがサンプル&ホールド回路である。
 動作概念としてパルス波を入力とし、それにホールドコントロール信号(TTL)をかけると信号が立ち上がっている間回路の出力は入力信号を追従した動きを見せる。
 その途中でホールドコントロールを下げてやると、その瞬間の電圧値を保持することが出来る。このときの電圧をパソコンに読み込ませることになる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  作製したサンプル&ホールド回路の動作チェックを行った。
 上の3つのグラフは一定の周期をもつsin波にホールドコントロールのたち下がりのタイミングを変えてかけたものである。この結果ホールドコントロールたち下がりから40nsの遅れを生じた後の電圧値が出力されていることがわかった。
 次はホールドコントロールを一定にして入力のsin波を徐々に速くしていったものである。これより今回作製したかいろでは13MHzまでは回路が追従できていることがわかった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @トリガ回路
 レーザー発振器の内部フォトダイオードより出力されるトリガ信号は電流値の問題からディジタル処理できるものに変換する必要があった。それを成すのがトリガ回路である。
 左に実際に製作したトリガ回路の動作チェックを行った時のグラフを示す。
 フォトダイオードの出力に合わせてトリガ回路より信号が出ていることがわかる



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @遅延回路
 トリガ回路によって出力される信号はこのままではサンプル&ホールド回路のホールドコントロールとしては使えない。
 そこで遅延回路によってその信号をTTL状にして、さらにフォトダイオードの出力信号との時間的タイミングをはかるために遅延回路を作製した。
 遅延の度合いは回路内のコンデンサによって大まかに決定されており、この場合120pfのコンデンサを介した場合が最も遅延されていることがわかった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次に近接場蛍光測定系の構築を行った。
 こちらで使用するレーザーは連続的に発振される緑色レーザーで、緑色の波長領域を反射しそれより短い領域を透過させるダイクロイックミラーでそれを反射させて光ファイバを通して近接場顕微鏡側に導いている。
 近接場顕微鏡の光プローブにより照射されたレーザー光は試料に当たりそれにより発生する蛍光を再び光プローブによって検出する。それは再び光ファイバに導かれ今度はダイクロイックミラーを透過して検出器側へと導かれていくものである。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ここで作製したシステムの微調整(レーザー経路位置合わせ)を次の手順で行った。
 はじめに光源より発振されるレーザー光をダイクロイックミラーによって近接場顕微鏡側へと導く時の位置あわせを行った。
 次に赤色レーザーを用いて近接場顕微鏡側から検出器側へとつなぐヶ所の位置あわせを行った。
 このときの様子を左の図に示している。またメタルハライドランプによる白色光を蛍光顕微鏡側から入射させた場合ダイクロイックミラーによって緑色は反射し、それより短波長の光は透過していることが如実にわかった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  先に構築したシステムでは光源から近接場顕微鏡側への位置合わせに困難が生じることがわかった。
 そこで光源からダイクロイックミラーまでの間に可動式のミラーを設置することで、容易に位置合わせができるように改良を施した。
 (図中赤丸が新たに設置したミラー)



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  構築したシステムを用いて近接場蛍光測定を行なった。この時試料として、蛍光試料ローダミン6Gを用いた。
 左図の上のグラフから蛍光が検出されているであろうと読み取れた(136μw)
 その時の近接場顕微鏡によるスキャン像が下の2つの図で、左は試料のプローブ先端と試料との間に働く力、原子間力よって凹凸を検出したもので、右の図は光プローブによって検出された蛍光モニターである。
 しかし、この2つの図からはその対象性が見られずに、試料の蛍光は測れていないようであった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  試料蛍光が測定されない原因について、近接場顕微鏡側の光ファイバにレーザー光入れる際フォーカスがずれてクラッド層に光が当たっていることが考えられた。
 これによりクラッド層で蛍光が発生してしまい、それが検出器に入ることで試料からの蛍光が観測できない状態になったものと考えられた。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  その対処策としてビデオカメラによる厳密な位置合わせを視覚的に行なう方法を考えた。
 ファイバー端面の像は対物レンズによって並行にそろえられ、ミラーを反射してビデオカメラに導かれる。
 そこでカメラレンズにより再びピントを合わせることで、ファイバー端面の像はビデオカメラに受像されるはずである。
 現在、この方法による位置合わせを試みている段階であり、これは今後の課題となった。