研究内容

グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、ナノチューブなど様々な顔を持つ炭素材料。それらの結晶格子の中に、窒素やホウ素を導入すると多彩な特性が生み出されます。このような炭素材料はヘテロ原子置換型炭素材料と呼ばれ、当研究室の主な研究テーマになっています。ここでは、ホウ素/炭素/窒素、ホウ素/炭素、および炭素/窒素から成るヘテロ原子置換型炭素材料(総称してB/C/N系材料と呼ぶ)を作製して、これらのカーボンアロイをエネルギー分野や環境分野に応用する研究を行っています。

1.B/C/N系材料の作製とリチウム二次電池、センサなどへの応用
グラファイト類似層状構造を有するB/C/N系材料の作製と物性


 グラファイトは六角網目平面が積層した層状構造を有し、層平面内の炭素同士はsp2混成軌道を使って隣り合う3つの炭素と強く共有結合し、層と層はファンデアワールス力という弱い力で積層しています。また、4価である炭素にはもう一つの価電子が残っており、それがpz軌道(平面に垂直に現れる軌道:π軌道ともいう)として非局在化し、これが自由電子となり電子伝導を示すため、グラファイトは電気良導体です。



 B/C/N系材料とはヘテロ原子置換型炭素材料の一種であり、グラファイトの炭素の一部を、周期表で両隣の元素であるホウ素や窒素で置換した材料です。これらのヘテロ原子を導入することにより、電子状態が変化し半導体性や高導電性などグラファイトとは異なった性質を示すようになります。この新しいB/C/N材料を化学気相蒸着法(CVD法)や低温で合成した化合物を熱分解する方法等を使って合成します。この際、合成したい物質の結晶構造を思い描いておき、それを組み立てるために必要な出発原料を選ぶことが大切です。実際に合成した物質の結晶構造や化学結合状態については、X線回折や ESCA(エレクトロニクス基礎研究所の共同利用施設)を用いて調べます。予測した構造を持つ物質の安定性や電子状態を調べるため、コンピュータによる計算実験も行います。また、合成した材料について、電気的な特性として電気伝導度や熱起電力を測定します。



 これまでに、当研究室ではBC3NやBC6N という組成の新しい物質を合成することに成功しており、これらが組成によってp型あるいはn型半導性を示したり、リチウムイオン二次電池の負極材料として大きな容量を示すことが明らかになってきました。
 これらのB/C/N材料は層状構造を有しているため、様々な化学種をその層間に挿入する(インターカレーションと呼ばれます)能力を持っています。この性質がリチウムイオン二次電池や新世代二次電池(ナトリウム、マグネシウム、カルシウムイオン二次電池)などへの応用につながります。また、表面に様々な化学種が吸着することにより電気的性質が変わることを利用すれば、センサとしての応用が可能です。
 B/C/N材料のテーマは1996年〜2001年日本学術振興会「未来開拓学術研究推進事業:炭素材料中への機能性ナノおよびミクロスペースの創製(JSPS-RFTF96R11701)」のプロジェクトの分担研究として選ばれ、高周波誘導加熱で2000℃に昇温して厚膜を合成できる装置を設置し、 B/C/N材料を合成してきました。また、1998年〜2007年には本学の「学術フロンティア推進事業」のテーマの一つとして取り上げられ、高真空下、通電間接加熱により500〜2000℃で結晶性の高い薄膜を合成する装置を設置し、エネルギー関連材料(電池、光触媒、水素吸蔵、等)などへの応用を最終目的とした基礎研究を行ってきました。その後、科研費{基盤研究(B)一般:2011〜2014年度}のテーマ「B/C/N系層状化合物に対するインターカレーションとエネルギー貯蔵への応用」および科研費{基盤研究(B)一般:2015〜2018年度}のテーマ「炭素質材料への金属のインターカレーション機構の解明と次世代二次電池負極材料の開発」で、継続して研究(大阪電通大・榎本教授、兵庫県立大・村松教授と松尾教授との共同研究)を行っています。
 また最近では、数層から成るナノシートダイヤモンド類似構造材料の作製を実施しています。

 

2.C/N系ヘテロ原子置換型炭素材料の作製とキャパシタ・光触媒などへの応用



 同じ炭素と窒素から成る物質でも、以下に記載したように、出発原料を選ぶことにより、組成や結晶構造の異なる材料となり、またそれに伴いユニークな特性が発現します。たとえば、四塩化炭素とアンモニアを原料とし、C3N4に近い組成の材料を作製することに成功しました。この材料はsp3混成軌道の炭素を有しており、高硬度材料短波長光の発光材料として期待されます。
 日本曹達および関西大学との共同研究では、窒素含有量の多い有機分子結晶を出発原料として、ナノメータオーダの細孔を有する多孔質材料の作製に成功しました。現在、この材料に対して吸着剤電気二重層キャパシタへの応用を検討しています。
 
 炭素/窒素材料は、上記の他にも光触媒としての特性を示すことが分かってきました。これをクリーンな水素エネルギーに利用するため、水素発生が可能な材料などへの応用を考えています。

更新:2019年2月6日

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