総合電子工学研究紹介教員紹介中村 敏浩
教授 中村 敏浩

ナノ材料・電子材料薄膜のプロセス開発・材料解析・デバイス応用

1.所望の薄膜特性を得るためのその場分光診断法を用いたプロセス制御法の開発
2.電子材料薄膜の低温作製技術の開発
3.アモルファス~多結晶薄膜の電子デバイス応用

電子材料薄膜作製プロセスのその場分光診断

近年、提案されている新規電子材料の中には、これまでに扱われなかった元素を含むなど、その薄膜作製のための反応容器内で起こる物理化学反応過程は非常に複雑になっています。そこで、我々は、気相・表面反応のその場分光診断法を成膜実験中にその場で適用し、得られた基礎データに基づいてプロセスを制御し、薄膜作製プロセスの再現性を確保することを目的に研究を進めています。例えば、有機金属化学成長(MOCVD)プロセスにおいて原料分子が成膜に至るまでのプロセス中での化学反応をその場でモニターし、それに基づいてプロセスをin situ(その場)制御する手法の確立に取り組んでいます。また、エッチングやCVDに用いられる各種フルオロカーボンプラズマプロセスについて、プラズマ中で生成される反応活性種のふるまいが基板表面のプロセス結果に及ぼす影響の検討も行っています。


アモルファス透明磁性半導体薄膜の低温作製

アモルファス透明導電材料に遷移金属を添加することにより磁性機能を付加したアモルファス希薄磁性半導体の薄膜作製技術の開発を進めています。具体的には、ITO(In2O3:Sn)に3d遷移元素Mnをドープすることにより、ITOの優れた透明性、導電性、安定性を損なうことなく、室温において強磁性を示す薄膜材料の開発に成功しました。さらに、フレキシブルポリマー基板上にMnをドープしたITO薄膜の室温での作製に着手し、室温で強磁性を示す透明導電膜のフレキシブル基板上への室温作製にも成功しました。


微小プラズマを用いたプロセス診断法の開発

微小プラズマを用いた新たなプロセス診断法として微小放電発光分光法を開発し、実プロセス条件下において気相中での原料分子の熱分解・酸化や成膜前駆体生成の反応過程の観測を行いました。この手法により、反応容器内で生じている化学反応過程を解析し、堆積膜の特性(結晶性、元素組成、表面モホロジー、堆積速度)との相関関係を調べています。


多元系酸化物多結晶薄膜を用いた電子デバイスの作製

近年、優れた電気磁気特性を有することからから注目されている酸化物エレクトロニクス材料薄膜の低温作製さらには多結晶膜を用いた電子デバイスの開発に取り組んでいます。例えば、ハーフメタル材料である(La,Sr)MnO3 (LSMO)に着目し、in situ赤外吸収分光法によるプロセスモニタリングを駆使することにより、所望の元素組成を有する堆積膜を得ることに成功しました。得られたLSMO多結晶膜は,低磁場域で大きな磁気抵抗効果を示すことも確認しました。さらに、高集積化ReRAM (Resistance Random Access Memory) 実現のための抵抗変化材料 (Pr,Ca)MnO3のMOCVDプロセスにも本手法を駆使して。プロセス条件の最適化を進め、印加した電圧パルスの極性に応じて抵抗値が大きく変化するPr0.7Ca0.3MnO3薄膜の作製に成功しました。


【研究トピックス】酸化物エレクトロニクス材料薄膜の作製と評価

近年、高機能かつ化学的に安定な酸化物が新規エレクトロニクス材料として注目されています。我々は、スパッタ法、パルスレーザー成長(PLD)法、化学気相成長(CVD)法など様々な手法を駆使して所望の酸化物薄膜を作製し、これらの薄膜の新規エレクトロニクスデバイスへの応用などを手がけています。


  • 次世代ユニバーサルメモリーの有力候補である抵抗変化型不揮発性メモリー(ReRAM: Resistance Random Access Memory)の実用化に向けて、印加パルス電圧の極性に依存して巨大かつ安定な抵抗変化が生じる複合マンガン酸化物薄膜の作製技術(MOCVD法、スパッタ法、PLD法など)を開発する。
  • 抵抗スイッチングのメカニズムを解明し、素子構造の最適化の指針を得る。


  • 遷移金属をドープすることにより磁気機能を付与した透明導電膜の成膜技術の確立を目指す。
  • ITO(In2O3:Sn)の高いキャリア密度に着目(キャリア誘起強磁性が発現しやすいのでは?) →磁性のキャリア密度依存性
  • アモルファス~多結晶材料をベースにした希薄磁性半導体の実現→磁性の移動度依存性
  • 既存のITO利用デバイスの生産ラインにもスムーズに導入できるなど事業化面でのメリットも大きい。