基礎科学研究紹介教員紹介阿久津 典子
教授 阿久津 典子

1.研究の背景と目的

ナノ構造の制御について

結晶成長の視点からの研究
熱励起型表面構造が重要
例:ステップ,キンク,表面上の「島」(アイランド),あるいは「負島」(ネガティブ・アイランド)
微斜面・・・平行ステップ列の供給源となるので結晶成長において極めて重要な構造
制御の視点から
結晶成長=一次相転移にともなう結晶相と環境相の二相共存状態における動的現象
現象の温度依存性,環境のパラメタ依存性等の解明,及びそれらを応用した制御
---->熱力学・統計力学的解析
目的
ステップ諸量の計算,
ステップと表面構造の関係の解明,
ステップと吸着子の相互作用関係の解明,を目的とした統計力学的理論研究

2.研究の方法

  • 原子スケール(サブ・ナノ・メータのスケール)物理量と熱力学的物理量の明確な区別.
  • ミクロなパラメタを意図的に減らした統計力学的ハミルトニアン(統計力学的模型)の構築
    ---->現象を支配するパラメタの疑う余地の無い特定.
  • 厳密解や準厳密解を与えることが確立されている計算法を用いて,分子場近似を超える計算分子間運動
    高信頼度統計力学計算
    ---->定量的な実験と計算との比較が可能
    ---->議論の精密化.
高信頼度統計力学計算法
  • 厳密解・準厳密解(解析的方法)
    2次元イジング模型--複素経路重み法(IPW法)
    ステップの形状におけるオーバーハング効果をランダムウォーク法で取り入れる.
    TSK(terrace-step-kink)模型--1次元自由フェルミオン模型計算
  • 密度行列繰り込み群(DMRG)アルゴリズム,
    積波動関数繰り込み群(PWFRG)アルゴリズム
    による数値計算
  • 大規模長時間モンテカルロ計算(エントロピーの準厳密計算)
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3.得られた結果および結論

  1. Si(001)2x1面上のステップ,Si(111)7x7面上のステップ,Si(111)1x1面上のステップ,について異方的ステップ張力,ステップ・スティフネスの高信頼度計算及び温度依存性の定量的予測を行った.
    我々の計算結果がチャンピオンデータである.
    我々が提出した統計力学模型:第2近接相互作用及び外場を取り入れた2次元イジング模型,正方格子(Si(001)2x1面),蜂の巣格子(Si(111)7x7面,Si(111)1x1面),正方格子RSOS模型(Si(001)2x1面)
    計算法:IPW法,PWFRG法

  2. 表面再構成のある表面は,最上層に属する原子を吸着子のように扱う模型により,温度依存性および蒸気圧依存性が定量的に予測できることを示した.
    例として,Si(111)1x1面のT$_4$サイト,H$_3$サイトに存在する表面を扱い,実験と比較することにより,吸着エネルギーを求めた.
    我々が提出した統計力学模型:T$_4$サイト,H$_3$サイト双方を取り入れた2次元三角格子気体模型
    計算法:PWFRG法,モンテカルロ計算法

  3. 吸着子のある表面におけるステップの振る舞い(温度依存性,吸着子蒸気圧依存性)を,統計力学的模型計算により調べた.その結果以下の新発見を行った.
    我々が提出した統計力学模型:RSOS-IC模型
    計算法:IPW法,PWFRG法,モンテカルロ計算法

    • 吸着子とステップの相互作用という点においては,吸着子間相互作用の性質によって現象が大きく異なる.
    • 吸着子間相互作用が無ければ(=Langmuir吸着子),吸着子の効果は力学的キンクエネルギーを実効的キンクエネルギーに変えるに過ぎないことを厳密に示した.
      ステップ荒さ,ラフニング温度を変えるが,ステップ・バンチングは起きない.
    • 吸着子間に引力があれば,熱平衡状態であってもステップ・バンチングが起こる.
    • ステップ・バンチングが生ずる機構には2つの原因がある.
      第一の原因:ステップ端への吸着エネルギーと環境蒸気の吸着子化学ポテンシャルとの競合
      第二の原因:吸着子の密度揺らぎを媒介とするステップ間引力が発生する.
    • 第二の原因によるステップ・バンチングにおいては,複数のステップがあたかも一本のステップであるかのように振舞う.
      そのため,ナノ構造を支配するステップ間相互作用係数と一本の一段差ステップ・スティフネスとの間の普遍的関係が満たされない.
    • 1次元自由フェルミオン普遍的ふるまいをやぶる.
    • 吸着子間相互作用が反発力のばあい,第一の原因は消失するが,第二の原因が残るため,やはりステップ・バンチングが生ずる.ただし,その生ずるパラメタ領域は引力系と比べて狭い.

4.研究成果の波及効果

吸着子によるマクロステップの形成機構の一つを解明することができた
---->吸着子を加工道具としてナノスケールの構造制御を行う,理論的基礎を世界で初めて与えた.

メゾスケールで行われた実験結果と原子スケールの量を結びつけた
---->実験から得られた原子スケール量と量子力学的第一原理計算から得られた値との一貫性を定量的に調べられるようになった.

5.今後の展開

表面再構成とステップとの相互作用は,吸着子間相互作用が反発力であるとしたRSOS-IC模型により調べられることが,最近の研究でわかった.これらについて,今後精密計算を行い,信頼できる計算データを供給する予定である. また,最近,モルフォロジーと吸着子との関係も計算できるように改良したので,今後それらのデータを供給していく.
各学会,協会での役員,幹事,編集委員,査読委員等
  1. 日本結晶成長学会 (評議員,選挙管理委員)

国際会議での組織委員,実行委員,論文委員等
  1. 第13回結晶成長 国際会議 (関西現地委員/プログラム委員)

最近の学術論文

  1. Thermal Step Bunching and Inter-Step Attraction on the Vicinal Surface with Adsorption
    Noriko Akutsu, Yasuhiro Akutsu, and Takao Yamamoto
    Phy. Rev. B 67 125407-1-125407-15 (2003)


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